シリコンバレーでの今の仕事のオファーをもらった5年前。

アメリカは、いつレイオフされるか分からない厳しい世界であることは理解していましたし、その前に働いていた医療機器の会社でも、それほど大きな不満があったわけでもありませんでした。既に購入した自宅や、半年前に買ったばかりの新車もあり、アメリカに住むことはそれまでまったく想定していなかったので、急なオファーに色々と悩んだものです。

しかしながら、やはり、シリコンバレーはベンチャー投資を行っている人間にとっては、まさにメジャーリーグといえる場所。「これ以上に自分自身を試せる場所はない」、「今、行かなかったら、一生、こんなチャンスはない」という想いが、私をシリコンバレーに向かわせてくれました。

それまでにシリコンバレーには、出張で何度も来ていたものの、当初は、「ベンチャー投資の本場、シリコンバレーで自分が本当にやっていけるのか?」という不安もありました。しかし、「有望な技術やベンチャー企業、起業家たちとの出会い」に対する期待のほうが遥かに上回っていました。

もともと、ベンチャーを見極める目や業界の知識については、それなりに自信はあったものの、やはり当初はいろんなギャップに悩みました。今思えば、当時は、知識や経験も不十分だったし、日々努力しなければ、あらゆることについて行けず、いろんな苦労もありました。そして、ここしばらくは、金融危機の影響で、積極的な投資は行えず、資金調達に苦労する投資先等とともに、非常に辛い時期も過ごしました。

でも、帰国を前にして、今、思い出すのは良い思い出ばかりです。

特に先日もお伝えした買収によって成功したベンチャー。この間、身内だけの買収記念パーティーがありました。30年前にベトナム難民としてボートに乗っていたCOOは、この成功により、大金を手にしただけでなく、多くの不治の患者を救いました。彼が初期のプロトタイプを私に見せて熱く語っていた4年前を今でも昨日のように思い出しますが、この会社に、投資を行い、その後の経営にも深く関与できたことだけでも、ここに来て本当によかったと思えます。

もちろん、その他、投資を通じて、多くの出会いがありました。起業家、エンジニア、弁護士、キャピタリスト、その他多くの人からいろんなことを学びました。そして、この5年間で、深まった信頼関係が、また今後に繋がっていく自分の財産となるものと信じています。

シリコンバレーに来てからの投資の結果は、いくつか成否がはっきりした会社、まだこれからの会社もありますが、現時点で流動化した資産だけだと、投資額から数パーセントのマイナス。まだ流動化していないものの、既に買収契約を締結している投資先もあり、今後の状況次第では、プラスになる可能性も十分ありそうです。ほとんどのベンチャーが資金難で倒産している去年からの現状を考えると、シリコンバレーのキャピタリストの中でも、それなりに良い成績ではないかと、自分では思っています。


ただ、本当は、この地で、もうしばらくベンチャー投資に携わりたかったというのが本音です。全てをやり終えたかと聞かれると、まだ不十分だし、やり残したこともまだあります。とはいえ、世界同時不況の波に一人で立ち向かうことはできないし、私が、このまま、シリコンバレーで投資をやろうと思っても、一人ではどうしようもないというのが、現状です。今の経済状況下では、あと数年は正常には戻らないように思います。


今後は、外資系の大手医療機器メーカーで、投資戦略や新規事業にかかわっていきます。職場は東京ですが、引き続き、米国のベンチャーや医療機器業界とは仕事をしていきます。これまでの経験がフルに活かせそうなポジションですし、長らく、ベンチャー側から見ていたこの業界を、一旦、大手側から見ることは、自分のキャリアにとっても、プラスに作用すると信じています。もちろん、その会社で今後のキャリアを終える可能性もありますし、いつか、また、別のチャンスをつかむかもしれません。でも、まず、自分に必要とされているのは、次の会社で結果を残すこと。これができなければ、その次は、どこにもありません。そのことをしっかりと肝に銘じ、次の職場でも、精一杯努力していきたいと思います。


久々の通勤電車、大企業に、いろんな人から、「ほんとに大丈夫か?」と多くの不安の声をいただいていますが(笑)、アメリカでも、食事その他かなりのフラストレーションがたまっていたのも事実なので、久々に日本に戻れることは、それなりに楽しみも多いです。


あと、こちらにきての収穫はゴルフでしょうか。まったくクラブを握ったこともなかった私が、3年弱で、最後はハンデ13まで来ました!日本でゴルフの回数が減るのはちょっと残念です・・・。


最後に、ながらく、拙文にお付き合いいただいた読者の方々、本当にありがとうございました。最初は単なる自分のための記録のつもりでスタートしたこのブログも、いつの間にか読者数も増え、このブログを通じて、多くの方々にも出会いました。その一つ一つが私の財産であり、また、いつか、みなさんとお会いできる日を楽しみにしています。


長い間、本当にありがとうございました。


P.S.

これでこのブログは閉鎖しますが、また別の形でコラムのようなものは続けていきたいと思います。そのうち、こちらにUpします。